No.13
チーズにかける2つの情熱
≪1つめ≫
食べ物の本に携わる仕事柄、私たちは時おり食べ物に関するイベントやグルメたちが集うパーティーに参加します。先日も東京駅から徒歩6分、ミクニ・マルノウチで行われたチーズ熟成士のM.O.Fを取得するエルベ・モンス氏のチーズの賞味会へ行ってきました。ちなみにM.O.Fとは訳すと「フランス国家最優秀職人」、フランスの優れた職人を対象に与えられる国家資格のことです。氏は2000年にこの名誉ある称号を受け、今なおチーズ熟成士として母国で活躍中。2004年現在もチーズ熟成士のM.O.Fをもつのは国内で10人きりといいますから、その称号を受けるのは狭き門なのです。
さて、ちょっと横道にそれましたが、そのモンス氏が今回紹介してくれたのは、白カビや青カビなどのタイプ別チーズ6種と、チーズを使ったコース料理、それと氏による簡単なチーズの講習もありました。チーズとワインのマリアージュはもちろん、料理もとてもおいしかった!ですが、何より私が感銘を受けたのは、モンス氏のチーズに対する情熱。氏の“チーズに対する情熱”はつまり、“原料への情熱”であり、彼はチーズ作りの最終工程「熟成」を専門業としながらも、牛たちの出すミルクにとても注目していました。
賞味会後、メニュー表にモンス氏から
サインをいただきました
「ブドウの品種によってワインの味が違うように、チーズもミルクによって味が違うことをみなさん知ってください。たとえば同じ牛が出すミルクでも、彼らが育った環境、その日食べた草の種類、そして季節によって、味は違う。自然がミルクの味を作りだしているということをぜひ覚えておいて欲しいのです」。さらに、牛の胃は4つあるから人間では消化できない草花の繊維も消化し、その栄養分によってさらにミルクの味も変化すると説明した上で、「こんなに科学が進んだ世の中でも、機械が草からミルクまでは作れない。また、ミルクは母牛が我が子に与えるいちばん安全な食べ物。チーズはそんな自然の恩恵を受けた豊かな食べ物なのですよ」。
フランスといえば華やかで贅沢な食卓をイメージしがちな私にとって、モンス氏のその飾り気のない素朴な言葉は驚きであり、食べ物の原点とは、脈々と繋がれてきた自然の営みの中にあってこそだということを再確認したのでした。
≪2つめ≫
手前味噌で恐縮ですが、私たちが情熱をかけて取り組んだチーズの本2冊がこの11月に完成いたしました。パチパチパチパチ。1冊はたまご社著の「チーズポケットブック」、もう1冊は画家の麻生哲郎さん著の絵本「フロマージュはいらんかね!」です。どちらもチーズをテーマにまったく違う角度から作られた本ですが、どちらも斬新、オススメです! 秋から冬は特にチーズが美味しい季節、1冊(いやいや、2冊とも)おそばにおいていただければ、チーズの見識が深まること間違いなし。お口に入れたチーズも、より味わい深くなるというものです。詳しくは「たまご社のしごと」のページをご覧くださいませ。
編集スタッフ 藤井 久子