イラスト©森泉 千亜紀
「名シェフが教えるおいしい野菜料理」
(株)旭屋出版
その2
一人からできる
「食育」と「地産地消」
「食育」も「地産地消」ということばも、平成生まれの新しい日本語です。関心のある人は知っているけれど、関心のない人は、知らなくても何にも困らない。そんなコトバ…。
「食育」とは、食べ物のことを教えること。「地産地消」は、地元でできたものを地元で消費すること。意味はカンタン。でも、実践が難しい。
例えば、子を育てていて、「小児生活習慣病が増えてるよ」「魚が切り身で泳いでる、なんて言う子がいるよ」と聞かされ、まさか我が子がそうならないように、と食育が必要だわ、と考える。そうしたら、次は何からしたらいいの?
毎日、素材から手作り料理を貫けばいい? 好き嫌いをいうな、と3食、子どもと戦うの? スナック菓子はだめ、と言い続けられるかなぁ。子どもに「好き嫌いがなんでいけないの? パパだって嫌いなものあるじゃん」と言われ、とっさに的確な返事ができるかしら。「これって、どんな栄養があるの? がんばって食べたらどんないいことがあるの?」と聞かれたときは…。
まずは親が勉強? でも、本や印刷物、テレビ、講習会、ホームページなどであふれるほどの「○○すべし」に触れると、「わかってるのよ。でも難しいのよ」とつぶやいてしまう。大人の頭は記憶力にも限界がある。だからこそ、いま必要なのは、言葉ではなくて、「実践の場」なのです。
近くに、おしゃべりシェフのいるレストランはないですか? 「今日のトマト、ちょっと味が違うだろ」とか「イタリアじゃ、こうやって食べるんだぞ」とか、話してくれるといいですよね。通学路に野良仕事に疲れてタバコを吸っているおじさんはいませんか? 「ねぇ、何が採れるの? いつごろなの?」ときいて、嫌がる人がいるでしょうか。
近くの八百屋さんとは仲良くしておくといいこともいっぱい。「もう枝豆の季節?」ときけば、「台湾からきてんだよ」と教えてくれる。ときには「メロン、熟れすぎたから二つで380円にするけど持っていかない?」と言ってくれるかも。「あさってのお客様用がいいんだけど」と言えば、おしりを押して固めを選んでくれる。そんな場に、子どもが同伴していると、親子セットで食育です。魚屋さんもいいし、肉屋さんもいい。お豆腐屋さんやお米屋さんも、探してでも仲良くしたいもの。
食べ物のことは数が多いし、季節で変わるし、翌年には国際事情が変わったりして、とても一人の情報収集では間に合いません。まずは、近所づきあいから「実践の場」を増やしてみませんか。
食育のポイントは次の5つ。(1)素材の氏素性 (2)栄養 (3)料理法 (4)国や地域の食文化 (5)楽しむ心。近所で、旅に出て、家の夕食でと、あらゆる場面でこの5つをばらばらでも食卓に盛り込んでいけるといいですね。出かけた先の農産物直売所でいろいろ聞くのもひとつ。さらに、家ではなかなかできない親子料理教室も、仲間たちと継続すると、きっと力になります。
地産地消も、呼び声は高らかなれど、近所の八百屋さんでさえムズカシイ。もっと身近な旬が身近に得られないものでしょうか。そんな話を、6月の「地産地消の推進に関する政策提案会」(農林水産省にて)に出席して話し合ってきました。興味のある方は農林水産省のホームページの中から「報道発表資料」をご覧下さい。食べ物については、経済論と同じように文化論も大事にしてほしい。次の時代の命をはぐくむものとして、心から願っています。
まつなり ようこ